@vivliostyle/theme-bunko
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Comparing version 0.5.0 to 0.5.1
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## [0.5.1](https://github.com/vivliostyle/themes/compare/@vivliostyle/theme-bunko@0.5.0...@vivliostyle/theme-bunko@0.5.1) (2022-04-20) | ||
**Note:** Version bump only for package @vivliostyle/theme-bunko | ||
# [0.5.0](https://github.com/vivliostyle/themes/compare/@vivliostyle/theme-bunko@0.4.1...@vivliostyle/theme-bunko@0.5.0) (2021-11-07) | ||
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# {吾輩|わがはい}は猫である。 | ||
# 銀河鉄道の夜 | ||
## 夏目 漱石 | ||
<div class="author">宮沢賢治</div> | ||
{吾輩|わがはい}は猫である。名前はまだ無い。 | ||
## 一、{午后|ごご}の授業 | ||
どこで生れたかとんと{見当|けんとう}がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて人間というものを見た。しかもあとで聞くとそれは書生という人間中で一番{獰悪|どうあく}な種族であったそうだ。この書生というのは時々我々を{捕|つかま}えて{煮|に}て食うという話である。しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。ただ彼の{掌|てのひら}に載せられてスーと持ち上げられた時何だかフワフワした感じがあったばかりである。掌の上で少し落ちついて書生の顔を見たのがいわゆる人間というものの{見始|みはじめ}であろう。この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。第一毛をもって装飾されべきはずの顔がつるつるしてまるで{薬缶|やかん}だ。その{後|ご}猫にもだいぶ{逢|あ}ったがこんな{片輪|かたわ}には一度も{出会|でく}わした事がない。のみならず顔の真中があまりに突起している。そうしてその穴の中から時々ぷうぷうと{煙|けむり}を吹く。どうも{咽|む}せぽくて実に弱った。これが人間の飲む{煙草|たばこ}というものである事はようやくこの頃知った。 | ||
「ではみなさんは、そういうふうに川だと{云|い}われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」先生は、黒板に{吊|つる}した大きな黒い星座の図の、上から下へ白くけぶった銀河帯のようなところを{指|さ}しながら、みんなに{問|とい}をかけました。 | ||
この書生の掌の{裏|うち}でしばらくはよい心持に坐っておったが、しばらくすると非常な速力で運転し始めた。書生が動くのか自分だけが動くのか分らないが{無暗|むやみ}に眼が廻る。胸が悪くなる。{到底|とうてい}助からないと思っていると、どさりと音がして眼から火が出た。それまでは記憶しているがあとは何の事やらいくら考え出そうとしても分らない。 | ||
カムパネルラが手をあげました。それから四五人手をあげました。ジョバンニも手をあげようとして、急いでそのままやめました。たしかにあれがみんな星だと、いつか雑誌で読んだのでしたが、このごろはジョバンニはまるで毎日教室でもねむく、本を読むひまも読む本もないので、なんだかどんなこともよくわからないという気持ちがするのでした。 | ||
ふと気が付いて見ると書生はいない。たくさんおった兄弟が一{疋|ぴき}も見えぬ。{肝心|かんじん}の母親さえ姿を隠してしまった。その上{今|いま}までの所とは違って{無暗|むやみ}に明るい。眼を明いていられぬくらいだ。はてな何でも{容子|ようす}がおかしいと、のそのそ{這|は}い出して見ると非常に痛い。吾輩は{藁|わら}の上から急に笹原の中へ棄てられたのである。 | ||
ところが先生は早くもそれを{見附|みつ}けたのでした。 | ||
ようやくの思いで笹原を這い出すと向うに大きな池がある。吾輩は池の前に坐ってどうしたらよかろうと考えて見た。別にこれという{分別|ふんべつ}も出ない。しばらくして泣いたら書生がまた迎に来てくれるかと考え付いた。ニャー、ニャーと試みにやって見たが誰も来ない。そのうち池の上をさらさらと風が渡って日が暮れかかる。腹が非常に減って来た。泣きたくても声が出ない。仕方がない、何でもよいから{食物|くいもの}のある所まであるこうと決心をしてそろりそろりと池を{左|ひだ}りに廻り始めた。どうも非常に苦しい。そこを我慢して無理やりに{這|は}って行くとようやくの事で何となく人間臭い所へ出た。ここへ{這入|はい}ったら、どうにかなると思って竹垣の{崩|くず}れた穴から、とある邸内にもぐり込んだ。縁は不思議なもので、もしこの竹垣が破れていなかったなら、吾輩はついに{路傍|ろぼう}に{餓死|がし}したかも知れんのである。一樹の蔭とはよく{云|い}ったものだ。この垣根の穴は{今日|こんにち}に至るまで吾輩が{隣家|となり}の三毛を訪問する時の通路になっている。さて{邸|やしき}へは忍び込んだもののこれから先どうして{善|い}いか分らない。そのうちに暗くなる、腹は減る、寒さは寒し、雨が降って来るという始末でもう一刻の{猶予|ゆうよ}が出来なくなった。仕方がないからとにかく明るくて暖かそうな方へ方へとあるいて行く。今から考えるとその時はすでに家の内に這入っておったのだ。ここで吾輩は{彼|か}の書生以外の人間を再び見るべき機会に{遭遇|そうぐう}したのである。第一に逢ったのがおさんである。これは前の書生より一層乱暴な方で吾輩を見るや否やいきなり{頸筋|くびすじ}をつかんで表へ{抛|ほう}り出した。いやこれは駄目だと思ったから眼をねぶって運を天に任せていた。しかしひもじいのと寒いのにはどうしても我慢が出来ん。吾輩は再びおさんの{隙|すき}を見て台所へ{這|は}い{上|あが}った。すると間もなくまた投げ出された。吾輩は投げ出されては這い上り、這い上っては投げ出され、何でも同じ事を四五遍繰り返したのを記憶している。その時におさんと云う者はつくづくいやになった。この間おさんの{三馬|さんま}を{偸|ぬす}んでこの返報をしてやってから、やっと胸の{痞|つかえ}が下りた。吾輩が最後につまみ出されようとしたときに、この{家|うち}の主人が騒々しい何だといいながら出て来た。下女は吾輩をぶら下げて主人の方へ向けてこの{宿|やど}なしの小猫がいくら出しても出しても{御台所|おだいどころ}へ{上|あが}って来て困りますという。主人は鼻の下の黒い毛を{撚|ひね}りながら吾輩の顔をしばらく{眺|なが}めておったが、やがてそんなら内へ置いてやれといったまま奥へ{這入|はい}ってしまった。主人はあまり口を聞かぬ人と見えた。下女は{口惜|くや}しそうに吾輩を台所へ{抛|ほう}り出した。かくして吾輩はついにこの{家|うち}を自分の{住家|すみか}と{極|き}める事にしたのである。 | ||
「ジョバンニさん。あなたはわかっているのでしょう。」 | ||
ジョバンニは{勢|いきおい}よく立ちあがりましたが、立って見るともうはっきりとそれを答えることができないのでした。ザネリが前の席からふりかえって、ジョバンニを見てくすっとわらいました。ジョバンニはもうどぎまぎしてまっ赤になってしまいました。先生がまた云いました。 | ||
「大きな望遠鏡で銀河をよっく調べると銀河は大体何でしょう。」 | ||
やっぱり星だとジョバンニは思いましたがこんどもすぐに答えることができませんでした。 | ||
先生はしばらく困ったようすでしたが、{眼|め}をカムパネルラの方へ向けて、 | ||
「ではカムパネルラさん。」と名指しました。するとあんなに元気に手をあげたカムパネルラが、やはりもじもじ立ち上ったままやはり答えができませんでした。 | ||
先生は意外なようにしばらくじっとカムパネルラを見ていましたが、急いで「では。よし。」と云いながら、自分で星図を{指|さ}しました。 | ||
「このぼんやりと白い銀河を大きないい望遠鏡で見ますと、もうたくさんの小さな星に見えるのです。ジョバンニさんそうでしょう。」 | ||
ジョバンニはまっ赤になってうなずきました。けれどもいつかジョバンニの眼のなかには{涙|なみだ}がいっぱいになりました。そうだ{僕|ぼく}は知っていたのだ、{勿論|もちろん}カムパネルラも知っている、それはいつかカムパネルラのお父さんの博士のうちでカムパネルラといっしょに読んだ雑誌のなかにあったのだ。それどこでなくカムパネルラは、その雑誌を読むと、すぐお父さんの{書斎|しょさい}から{巨|おお}きな本をもってきて、ぎんがというところをひろげ、まっ黒な{頁|ページ}いっぱいに白い点々のある美しい写真を二人でいつまでも見たのでした。それをカムパネルラが忘れる{筈|はず}もなかったのに、すぐに返事をしなかったのは、このごろぼくが、朝にも午后にも仕事がつらく、学校に出てももうみんなともはきはき遊ばず、カムパネルラともあんまり物を云わないようになったので、カムパネルラがそれを知って気の毒がってわざと返事をしなかったのだ、そう考えるとたまらないほど、じぶんもカムパネルラもあわれなような気がするのでした。 | ||
先生はまた云いました。 | ||
「ですからもしもこの{天|あま}の{川|がわ}がほんとうに川だと考えるなら、その一つ一つの小さな星はみんなその川のそこの砂や{砂利|じゃり}の{粒|つぶ}にもあたるわけです。またこれを巨きな乳の流れと考えるならもっと天の川とよく似ています。つまりその星はみな、乳のなかにまるで細かにうかんでいる{脂油|しゆ}の球にもあたるのです。そんなら何がその川の水にあたるかと云いますと、それは真空という光をある速さで伝えるもので、太陽や地球もやっぱりそのなかに{浮|うか}んでいるのです。つまりは私どもも天の川の水のなかに{棲|す}んでいるわけです。そしてその天の川の水のなかから四方を見ると、ちょうど水が深いほど青く見えるように、天の川の底の深く遠いところほど星がたくさん集って見えしたがって白くぼんやり見えるのです。この模型をごらんなさい。」 | ||
先生は中にたくさん光る砂のつぶの入った大きな両面の{凸|とつ}レンズを指しました。 | ||
「天の川の形はちょうどこんななのです。このいちいちの光るつぶがみんな私どもの太陽と同じようにじぶんで光っている星だと考えます。私どもの太陽がこのほぼ中ごろにあって地球がそのすぐ近くにあるとします。みなさんは夜にこのまん中に立ってこのレンズの中を見まわすとしてごらんなさい。こっちの方はレンズが{薄|うす}いのでわずかの光る粒{即|すなわ}ち星しか見えないのでしょう。こっちやこっちの方はガラスが厚いので、光る粒即ち星がたくさん見えその遠いのはぼうっと白く見えるというこれがつまり今日の銀河の説なのです。そんならこのレンズの大きさがどれ位あるかまたその中のさまざまの星についてはもう時間ですからこの次の理科の時間にお話します。では今日はその銀河のお祭なのですからみなさんは外へでてよくそらをごらんなさい。ではここまでです。本やノートをおしまいなさい。」 | ||
そして教室中はしばらく{机|つくえ}の{蓋|ふた}をあけたりしめたり本を重ねたりする音がいっぱいでしたがまもなくみんなはきちんと立って礼をすると教室を出ました。 | ||
## 二、活版所 | ||
ジョバンニが学校の門を出るとき、同じ組の七八人は家へ帰らずカムパネルラをまん中にして校庭の{隅|すみ}の{桜|さくら}の木のところに集まっていました。それはこんやの星祭に青いあかりをこしらえて川へ流す{烏瓜|からすうり}を取りに行く相談らしかったのです。 | ||
けれどもジョバンニは手を大きく{振|ふ}ってどしどし学校の門を出て来ました。すると町の家々ではこんやの銀河の祭りにいちいの葉の玉をつるしたりひのきの{枝|えだ}にあかりをつけたりいろいろ{仕度|したく}をしているのでした。 | ||
家へは帰らずジョバンニが町を三つ曲ってある大きな活版処にはいってすぐ入口の計算台に居ただぶだぶの白いシャツを着た人におじぎをしてジョバンニは{靴|くつ}をぬいで上りますと、{突|つ}き当りの大きな{扉|と}をあけました。中にはまだ昼なのに電燈がついてたくさんの輪転器がばたりばたりとまわり、きれで頭をしばったりラムプシェードをかけたりした人たちが、何か歌うように読んだり数えたりしながらたくさん働いて{居|お}りました。 | ||
ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い{卓子|テーブル}に{座|すわ}った人の所へ行っておじぎをしました。その人はしばらく{棚|たな}をさがしてから、 | ||
「これだけ拾って行けるかね。」と云いながら、一枚の紙切れを{渡|わた}しました。ジョバンニはその人の卓子の足もとから一つの小さな平たい{函|はこ}をとりだして向うの電燈のたくさんついた、たてかけてある{壁|かべ}の隅の所へしゃがみ{込|こ}むと小さなピンセットでまるで{粟粒|あわつぶ}ぐらいの活字を次から次と拾いはじめました。青い胸あてをした人がジョバンニのうしろを通りながら、 | ||
「よう、虫めがね君、お早う。」と云いますと、近くの四五人の人たちが声もたてずこっちも向かずに冷くわらいました。 | ||
ジョバンニは何べんも眼を{拭|ぬぐ}いながら活字をだんだんひろいました。 | ||
六時がうってしばらくたったころ、ジョバンニは拾った活字をいっぱいに入れた平たい{箱|はこ}をもういちど手にもった紙きれと引き合せてから、さっきの卓子の人へ持って来ました。その人は{黙|だま}ってそれを受け取って{微|かす}かにうなずきました。 | ||
ジョバンニはおじぎをすると扉をあけてさっきの計算台のところに来ました。するとさっきの白服を着た人がやっぱりだまって小さな銀貨を一つジョバンニに渡しました。ジョバンニは{俄|にわ}かに顔いろがよくなって{威勢|いせい}よくおじぎをすると台の下に置いた{鞄|かばん}をもっておもてへ飛びだしました。それから元気よく{口笛|くちぶえ}を{吹|ふ}きながらパン屋へ寄ってパンの{塊|かたまり}を一つと角砂糖を一{袋|ふくろ}買いますと{一目散|いちもくさん}に走りだしました。 |
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